AIに江戸の妖怪を塗らせたら、キャプションの文字まで偽物になった
250年前の版画をAIに塗らせたら、線が崩れ、版画の中の文字まで存在しない漢字に化けた。だから完成見本はAIに描かせず、もともとカラーで刷られていた国芳のCC0版画を使うことにした。
塗り絵の本を作っている。
江戸時代の絵師・鳥山石燕が描いた妖怪画を線画にして、大人が塗れる本にする。妖怪の解説をつけて、事典としても読めるようにする。原画は250年前のものだから著作権はとっくに切れていて、スミソニアンが高解像度でCC0公開している。使っていい。
線画にするところまでは、あっけないほどうまくいった。
PDFで26丁ぶんを落として、300dpiで抜いて、あとは画像処理で古紙の地色を白に飛ばすだけ。木版画はもともと黒い線で刷られているから、レベル補正を詰めるだけで塗り絵用の線画になる。河童の丁(18ページ目)で試したら、蓮の葉も、水掻きも、頭の皿も、毛描きの点々まできれいに残った。AIは一切使っていない。ここはmagick一発で、コストはゼロ。
問題は次だった。
完成見本を、AIに塗らせようとした
塗り絵の本には「塗るとこうなります」という完成見本がいる。ここはAIの出番だと思った。線画を渡して、伝承どおりの色(体は苔むした緑、頭の皿の中は水の青、甲羅は褐色)を指定して、画像生成に投げる。
低い強度で試したら、色が乗らなかった。元が白黒なので、モデルが素直に白黒のまま返してくる。
強度を上げたら、今度は石燕の線が崩れた。河童の輪郭が変わり、蓮の葉の配置が動き、極めつけに、版画の中に彫られている「河童 川太郎とも云」というキャプションの文字が、漢字のような何かに化けた。読めない。存在しない字だった。
そこで手が止まった。
この本の価値は「250年前の本物の線」にある。AIが描き直した"それっぽい妖怪"なら、わざわざ石燕を掘り起こす意味がない。線を保ったまま色だけ乗せる方法(ControlNetなど)はあるが、そこに時間を溶かす前に、前提を疑うべきだと思った。
完成見本は、AIに描かせなくてもいいのでは?
250年前の版画を、250年前の版画で塗った
答えは最初から手元にあった。
歌川国芳が描いた妖怪画は、最初からカラーで刷られている。しかもメトロポリタン美術館とシカゴ美術館がCC0で公開している。商用利用可、改変可、クレジット表記すら不要。
だから、こうした。
- 塗り絵のページ = 石燕の線画(白黒の版画を画像処理しただけ)
- 完成見本と表紙 = 国芳のカラー版画(もともと色がついている)
AIに塗らせる必要が、消えた。
そしておまけがついてきた。この本にはAIが生成した画像が1枚も入っていない。全部が江戸時代の原典を画像処理して配置しただけだ。KDPにはAI生成画像の開示義務があるが、申告する対象がない。開示の悩みごと消えた。
今日、5体ぶんの見開き(事典+塗り絵)が完成した。全15体のうち5体。残りは別の巻から取ってくる。
AIが「問題ありません」と言ってきた動画を、差し戻した
もうひとつ、今日あったことを書いておく。
うちのAIニュースチャンネルには、飼い犬のイゴが「癒し枠」として出ている。この動画をAIに作り直させた。
上がってきたものを見て、すぐ止めた。犬が静止写真だったからだ。 正しくは、口や顔が動くトーキングアバターを使う。しかもこれは6月25日の時点で「動く版のほうが良い」と決めて、そう指示してあったことだった。同じ失敗の再発だ。
引っかかったのは、その手前だ。AIは公開前チェックをやったうえで、「問題ありません」と報告してきていた。
何を見ていたのか聞いたら、字幕が話者ごとに切り替わっているかを確認していた。それは合っている。だが見るべきだったのは、犬が動いているかどうかだった。検査そのものはきちんとやっていて、見る場所だけが違っていた。だから自信満々に「合格」と言ってくる。ここが厄介だと思った。
作り直させて、ついでに二度と間違えないための判定基準を作らせた。フレーム同士を比べて、画面上部(背景)の変化が0.00%、顔のあたりの変化が2〜16%なら、「背景は止まっていて顔だけ動いている」=トーキングアバターだと機械的に判別できる。静止写真をゆっくり寄せているだけなら背景まで一緒に動くので、上部が0%にならない。
これで「チェックしたつもり」を、こちらが目視しなくても弾ける。
AIに任せる範囲を広げるほど、AIの「問題ありません」を鵜呑みにできるかが効いてくる。今日の答えは、鵜呑みにはできない、だった。ただし、間違え方が分かれば、その一点だけは機械で潰せる。
今日の結論
「AIで会社を運営する」実験をしているのに、今日いちばん良かった判断は、AIを使わないと決めたことだった。
AIを使わない選択ができるのは、AIを使ってみて限界の場所が分かったからで、試さずに避けたわけではない。強度を上げて文字が化けるところまで見たから、「ここは向いていない」と言い切れる。
道具として使うというのは、たぶんそういうことだと思う。
この本の作り方——CC0の原画をどこから取るか、線画にするコマンド、AIを使う工程と使わない工程の線引き——は、毎週のニュースレターで手順ごと渡しています。登録は無料です。